歯だけじゃない!歯周病が与える全身への悪影響とは

「あっ、歯ぐきから血が出てきた・・・」

「朝、起きると歯ぐきがネバネバする・・・」

「なんだか最近、妙に歯が長くなってきた気がする・・・」

 

こんな症状、ありませんでしょうか?
上のような症状が出ている方は、歯周病のおそれがあります。
歯周病は歯の周辺組織である歯ぐきが腫れたり出血を起こす、または歯を支えているあごの骨が歯周病菌によって溶かされるなどの症状が現れる病気です。
「気が付いたらいつの間にか歯が抜け落ちていた」ということもある怖い歯周病ですが、歯周病の本当の怖さは「歯や歯ぐきのみならず、歯周病が原因で全身の病気をひきおこすこともある」という点です。
歯周病はお口の中だけの病気と考えられがちですが、歯周病は放置してしまうと、心筋梗塞や脳梗塞などの全身にわたるさまざまな病気を発症させることがじょじょに明らかになってきています。
今回は、「歯やお口だけじゃない!歯周病が全身に与える悪影響とは」について詳しくお話をさせていただきます。

歯周病とは

歯を失う原因の第一位は歯周病

突然ですが、皆さんは「歯が抜け落ちてしまう原因となる病気の第一位」はどのような病気だと思いますか?
おそらく、「う~ん、やっぱり虫歯かな?」と回答される方が多いかと思いますが、実は、日本人の歯が抜ける原因となっている病気の第一位は「歯周病」なのです。
歯周病は日本人が歯を失ってしまう原因の第一位の病気で、その確率は「歯が抜けてしまう人のおよそ4割」の人が歯周病が原因となり歯を失っています。
(虫歯は歯が抜ける原因の第二位で日本人のおよそ3割の人が虫歯が原因となって歯を失っています)

歯周病は成人だけではなく、若年層や未成年にも多いのが特徴

歯周病は日本人の成人のうち、「約85%」の人がかかっているとされる病気であり、いまや歯周病は「国民病」とも表現されるようになってきています。
成人の8割以上の人がかかっている歯周病ですが、歯周病は特に中年世代である「55歳~64歳」の世代の方に多く、この世代の84.6%の方に歯ぐきの炎症などの症状が見られます。
また、歯周病は中年世代のみならず若年層や未成年の方の世代にも多く、「5歳~14歳」の世代の方の「33.4%」、「15歳~24歳」の世代の方の「70.3%」に歯ぐきの炎症などの症状があることが確認されています。

歯周病の症状について

歯周病の代表的な症状

歯周病は、歯に出来る疾患である虫歯とは異なり、歯の周辺組織の歯ぐきやあごの骨などにさまざまな悪影響をおよぼす病気であり、代表的な症状としては、

  • 歯ぐきが赤く(赤黒く)腫れる
  • 歯ぐきから血が出る
  • 歯ぐきから膿が出る
  • 歯がぐらぐらになる
  • 口臭が出てくる

等の症状があります。
歯ぐきの出血や腫れなどがおきることで知られる歯周病ですが、歯周病の症状は単に歯ぐきから血が出たり腫れたりするだけではなく、症状が進むと歯周病の原因菌である「歯周病菌」という細菌が歯を支えているあごの骨である歯槽骨を溶かしてしまいます。
また、さらに歯周病の症状が進むと歯がぐらぐらと不安定な状態になり、最終的にはあごの骨が溶けて歯を支えることが出来なくなってしまい、歯が自然に抜け落ちてしまうケースもあります。

歯周病は「サイレントキラー」

日本では成人の約「85%」の人がかかっているというデータがある歯周病ですが、歯周病は「症状に気づきにくい」という特徴があるため、歯周病にかかっている成人の「70%」の人がはっきりとした自覚症状に気づかないままで過ごしてしまっている、とされています。
歯周病は病気が進んでしまうと「ある日突然歯が抜け落ちる」、などの症状が出てくることもあり、このことから歯周病は「静かな殺し屋」=「サイレントキラー」と呼ばれています。

歯周病は全身の健康に悪影響をおよぼします

「歯が抜け落ちる」だけでは済まない歯周病の怖さ

一般的には「お口の中だけの病気」と考えられている歯周病ですが、歯周病のおそろしいところは「歯が抜け落ちる」という症状だけにとどまらない、という点にあります。
歯周病を治療せず放置してしまうと、やがて歯周病をひきおこす細菌である歯周病菌は歯ぐきやあごの骨の中の血管から血液に侵入し、血液の中に侵入した歯周病菌が身体じゅうをかけめぐってしまい、全身の健康にさまざまな悪影響をおよぼすのです。
現在、「歯周病が関係している」と指摘される全身の病気としては、以下の病気があります。

  1. 糖尿病

    以前は、歯周病と糖尿病の関係については「歯周病は糖尿病の合併症として発症しやすい病気の一つ」とされてきました。
    しかし、研究の結果、現在では「歯周病が糖尿病を発症するリスクを上げてしまう」ことが少しずつ判明してきています。歯周病が糖尿病を発症するリスクを上げる理由については、まだ研究段階ではありますが、歯周病の症状が進行して血管の内部に侵入した歯周病菌が体内の防御機能によって死滅したあと、血管の中に残った歯周病菌の死骸が「内毒素」という毒素を放出し、内毒素がインスリンの働きを下げる性質を持つTNF-αという物質を肝臓や脂肪組織から産出させてしまうことが糖尿病リスクの上昇につながっているのではないか、と考えられています。

  2. 認知症

    歯周病と認知症の関連性については、まだ研究段階ではあるものの、「歯周病は認知症の発症原因としての関係性がある」という説が、おおむね現在の定説になりつつあります。
    ある実験では、歯周病を発症したマウスの脳には認知症の一つであるアルツハイマー病の原因となるタンパク質が歯周病ではないマウスの1.5倍の量に増えて脳内に沈着をおこしており、脳内のタンパク質がアルツハイマーを悪化させていたことが明らかになっています。
    また、実験では歯周病にかかったマウスは認知機能が低下していることも確認され、人間においても同様の理由で歯周病が認知症になるリスクや認知症の症状を悪化させているのではないか、と指摘されています。

  3. 心筋梗塞・狭心症(冠状動脈性心疾患)

    歯ぐきやあごの骨の内部を走る血管から血液に入り込んだ歯周病菌は、やがて心臓の血管に到達します。
    歯周病菌が心臓の血管内部を刺激することで、血管の内壁部分に脂肪のかたまりであるプラークが作られてゆきます。プラークが出来てしまい血液の通り道が細くなった血管内部は、血液の流れが速くなり(高血圧状態)冠状動脈精神疾患の一つである狭心症をひきおこすリスクが上がるほか、血流が増すことで血管の内壁部分に傷がつき、傷がついた箇所に血栓が作られはがれた落ちた血栓が血管を詰まらせてしまい、心筋梗塞等の命の危険性にかかわる病気をひきおこすことが明らかになっています。

  4. 脳梗塞(脳血管疾患)

    血液の中に侵入した歯周病菌は、脳の血管内壁にもプラークを作り出します。
    プラークが出来てしまった脳の血管内壁は心臓の血管と同じように高血圧となって傷つきやすくなり、血管内壁に血栓が作られやがてはがれた血栓が脳の血管を詰まらせてしまい、脳梗塞などの脳血管疾患をひきおこします。歯周病と脳梗塞の関係については「歯周病を発症している人はそうでない人よりも2.8倍の確率で脳梗塞になりやすい」という研究結果の報告もあり、歯周病がひきおこす脳血管疾患のメカニズムが徐々に解明されつつあります。

  5. 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

    誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物を誤って飲み込み、気管や肺に食べ物や飲み物が入り込んでしまい肺の内部で細菌が繁殖して炎症をひきおこす病気です。
    誤嚥性肺炎と歯周病についての因果関係ははっきりと明らかになった訳ではありませんが、誤嚥性肺炎を発症する人の多くは同時に歯周病をわずらっており、誤嚥性肺炎を発症した人の肺の中からは歯周病菌が発見されることが多いため、「歯周病菌が原因で誤嚥性肺炎がひきおこされるおそれがある」と考えられています。

  6. 早産・低体重児出産

    さまざまな病気を発症させるおそれがある歯周病は、近年の研究の結果、「早産」および「低体重児出産」を誘発させることがじょじょに明らかになってきています。
    現在は研究段階ではあるものの、「血液の中に侵入した歯周病菌が胎盤を通して胎内にいる赤ちゃんに感染し、その結果として早産が誘発されるのでは」、と言われています。
    実際、歯周病は早産をひきおこすと考えられている原因の中でもタバコやアルコールと比べてはるかに高い「7倍の危険性がある(歯周病を発症していない人と比較して)」ことが明らかになりつつあり、歯周病と早産には深い関連性があることが指摘されています。

  7. 骨粗しょう症

    これはまだ研究段階ですが、骨がすかすかになりもろくなる病気の骨粗しょう症は歯周病と関係があることが指摘され始めています。
    歯周病と骨粗しょう症はともに「骨に悪影響をおよぼす病気」のため、これらの病気が関係があることは何らおかしいことではなく、事実、歯周病を治療することで骨粗しょう症の症状の改善傾向が見られる、という研究結果も発表されています。歯周病と骨粗しょう症の関係性については、歯周病にかかった人の歯ぐきの内部で作り出される「サイトカイン」という物質が骨の新陳代謝に悪影響をおよぼし、その結果として骨粗しょう症を誘発している可能性があると言われています。
    また、骨粗しょう症は骨がもろくなる病気のため、あごの骨が溶けてもろくなる歯周病を治す際には骨粗しょう症にかからないようにすることが歯周病を改善するための重要なポイントの一つとなります。

  8. 関節リウマチ

    近年の研究では、関節の病気である「関節リウマチ」にも歯周病が関係していることが明らかになってきています。関節リウマチは関節が炎症をおこして腫れてしまい、軟骨や骨が破壊されて症状が進むと関節そのものが変形することもある病気です。歯周病はこの関節リウマチとの関係性が指摘されており、関節リウマチをわずらう人の多くが歯周病を発症していることから、「歯周病の原因となる歯周病菌の一部が全身をかけめぐる際に関節に移動し、関節内で歯周病の炎症をおこす炎症性物質であるTNF-αやサイトカインなどが関節に影響をおよぼすため、関節リウマチの炎症がひきおこされているのではないか」、と考えられています。

  9. 腎臓病

    歯周病は③と④の項目で述べたとおり、歯周病菌が原因で血管の流れがとどこおってしまい、動脈硬化や高血圧などをひきおこすことが判明しています。
    歯周病によって動脈硬化や高血圧がひきおこされると、血液内にひそむ歯周病菌や血液内の炎症性物質、そして血圧が高いことが影響して腎臓に負担がかかりやすくなり、慢性腎臓病を招くことがあります。
    慢性腎臓病は腎臓の機能が低下して夜間頻尿や息切れ、貧血、倦怠感、むくみ等の症状が出る病気であり、慢性腎臓病の症状が進むと腎臓の機能が失われる腎不全を発症するなど、重篤な症状におちいってしまうケースも珍しくありません。

【セルフケアとプロケアを合わせて行い、歯周病を効果的に予防しましょう】

「歯周病が全身におよぼす悪影響」についてご説明をさせていただきました。

今回ご説明をさせていただいたように、歯周病は歯や歯ぐき、あごの骨のみならず全身の病気と深い関係があることが明らかになってきています。
時には命にかかわる病気にまで発展することもあるこわい歯周病ですが、歯周病は初期段階であれば患者様がご自身で行う毎日のブラッシングで完治させることが十分可能です。
歯周病が悪化して全身性の疾患を発症させないようにするためにも、セルフケアとして日頃から毎日のブラッシングを基本としたプラークコントロールを欠かさずに行い、合わせて、プロケアとして定期的に歯科医院に通って歯周病検査を受け、歯周病を効果的に予防することを心がけるようにしましょう。

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