患者様の中には、「歯をきちんと磨いているのに虫歯になる」という方がいれば、それとは逆に「それほど歯を一生懸命磨いていないのに虫歯にならない」という方もいます。
ではなぜ、このような「虫歯のなりやすさ」の違いが出てくるのでしょうか。
その答えは、「虫歯の原因を作る生活習慣」にあります。
もちろん、虫歯を防ぐためには毎日のブラッシングによるぷラークコントロールは欠かせないことの一つですが、虫歯はブラッシングのみならず、その人の体質や食生活の習慣などが「虫歯が出来やすいかどうか」に関係しています。
今回は、「虫歯の原因を作る生活習慣」についてお話をさせていただきます。
目次
虫歯が発生するメカニズム
今回、「虫歯の原因を作り出す生活習慣」についてお話をさせていただく前に、まず、「虫歯がどのようにして発生するのか」という「虫歯のメカニズム」についてかんたんにご説明いたします。
虫歯は、お口の中にひそんでいる千億個~1兆個の細菌の中の一つである「ミュータンス菌」という細菌によってひきおこされます。
ミュータンス菌は歯に付着している食べカスやプラーク(歯垢)に含まれている糖質をエネルギー源として活動しており、ミュータンス菌が歯に付着した状態が長く続くとミュータンス菌が酸を出して歯の表面物質であるエナメル質を溶かしてしまいます。
これを「脱灰(だっかい)」と呼びます。
脱灰はミュータンス菌以外にも食べ物に含まれる酸によってもひきおこされますが、この脱灰は「虫歯の始まりの状態」であり、脱灰によって溶かされた歯の表面はやがてさらに穴が大きく深くなってゆきます。
この状態が一般的に「虫歯」と呼ばれる状態のことを指します。
虫歯になりやすい人とそうでない人の違い
冒頭部分でもお話したように、虫歯には「なりやすい人」と「そうでない人」が存在しています。
虫歯は原因菌であるミュータンス菌と、歯の質、ミュータンス菌のえさとなる糖質、そして時間の経過、という「4つの要素」がすべてそろったときに、初めて発生します。
さらに、虫歯になりやすいかそうでないかは、これら4つの要素に加え、以下に挙げるさまざまな要素も関係してきます。
唾液の質と量
虫歯になりやすい人かそうでない人かについては、その人の「唾液」の質と量が大きく関係しています。
唾液がサラサラとしていて多く分泌されている人は虫歯になりにくく、唾液がネバネバとして量が少ない人は虫歯になりやすい傾向があります。
唾液の質と量が虫歯のなりやすさに関係している理由は、唾液は普段、お口の中で活動しているミュータンス菌や食べカス、プラークによって出された酸が歯のエナメル質を溶かす脱灰現象を、唾液に含まれているカルシウムやリン酸などの成分によって修復しているためであり、酸によって溶かされた歯のエナメル質を修復する現象を「再石灰化」と呼びます。
また、唾液にはお口の中の細菌の活動を抑制する抗菌作用もあるため、唾液がサラサラでお口の中に行き渡りやすく、なおかつ唾液の量が多いと歯の再石灰化とお口の中の浄化が自然と円滑に進むようになり、虫歯を発症しにくくなります。
それとは逆に、唾液がネバネバとしていて量が少ないと十分に唾液を歯やお口のすみずみまで行き渡らせることが出来なくなってしまい、虫歯になりやすくなってしまうのです。
ミュータンス菌が口腔常在菌として優位かどうか
口腔常在菌とはお口の中にいる細菌類のことであり、虫歯になりやすいかどうかは口腔常在菌の一つであるミュータンス菌がお口の中に定着して優位な状態を作っているいるかどうかで変わってきます。
ミュータンス菌がお口の中で優位な状態になるかどうかは、3歳ごろまでにミュータンス菌がお口の中に感染するかどうかで決まるとされています。
赤ちゃんとして生まれてからおよそ3歳前後ごろまでに、ミュータンス菌がご両親を始めとする大人やそのほかの人たちからの食べ物の口移し、キス、飲み物の回し飲みなどが原因で感染してしまうと、その子どものお口の中は口腔常在菌であるミュータンス菌が優位になり、虫歯にかかりやすくなると考えられています。
歯の質
歯は、表面物質である「エナメル質」とエナメル質におおわれている「象牙質」、そして歯の根っこの部分で象牙質をおおっている「セメント質」の3つの組織で構成されています。
この3つの組織のうち、特に表面物質であるエナメル質が子どものときにしっかりと形成されないと「石灰化不全」という現象が起きてしまい、エナメル質が脱灰しやすくなり虫歯にかかりやすくなってしまいます。
子どもの時期の石灰化不全の原因については、
- 乳歯のころに虫歯が多く出来る
- 乳歯のときに歯をぶつけてしまった(乳歯の外傷)
- 赤ちゃんが胎内にいるときにお母さんが飲んだ薬の影響
- 遺伝によるもの
- 全身性の病気
- ビタミンAやビタミンDの不足
- カルシウムやリンが不足する栄養障害
- ホルモンの異常
- フッ素によるもの
などがあります。
また、石灰化不全は主に子どものころに歯が形成される段階でひきおこされるため、子どもの歯は虫歯になりやすいという特徴があります。
歯並びや歯のかみ合わせ
虫歯になりやすいかどうかは、歯並びやかみ合わせも影響してきます。
歯並びが悪いと歯磨きが歯のすみずみまで届きにくくなり、磨き残しが発生して虫歯になりやすくなるほか、かみ合わせが乱れていると一部の歯にかたよった負担がかかり、歯がひび割れて食べカスやプラークが入り込みやくなるため虫歯が出来やすく、その部分から虫歯が広がってしまうケースがあります。
また、かみ合わせが乱れていると食べ物をよく噛めなくなり、唾液の分泌量が減ってしまい虫歯になりやすい、というデメリットもあります。
虫歯になりやすい生活習慣について
上記のように虫歯はその人の体質によってなりやすい・なりにくい、という原因が存在していますが、虫歯は「日々の生活習慣」も発生率に大きく関係しています。
虫歯になりやすい生活習慣としては、以下の5つがあります。
歯磨きをしない、夜寝る前に歯を磨かない
最初の「虫歯が発生するメカニズム」の項で述べたとおり、虫歯はお口の中に存在する虫歯菌であるミュータンス菌が、食べカスやプラークに含まれている糖質をえさにして活動するため、歯磨きをせずに食べカスやプラークが歯に付着している時間が長くなるとミュータンス菌の活動が活発化して虫歯にかかりやすくなってしまいます。
また、就寝中はお口の中の自浄作用を行っている唾液の分泌量が減り、虫歯にかかりやすくなる時間帯のため、特に夜寝る前に歯を磨かないと歯に付いた食べカスやプラークをえさにしてミュータンス菌が活発化してしまい、虫歯をひきおこしやすくなります。
このため、毎日の歯磨きは食後に欠かさず行い、特に夜寝る前には飲食を控えて歯磨きを必ず行うようにすることで虫歯を発症するリスクを下げることが出来ます。
誤った歯磨きやケア、磨き残し
「歯磨きを毎日きちんとしているのに虫歯になる」という人の多くは、誤った歯磨き方法やケアの仕方の間違い、ブラッシングの際の磨き残しが原因で虫歯にかかりやすくなっています。
歯磨きをする際には、「力を入れすぎず」「一箇所につき20回(10往復)」を守りながら磨くことにより、歯の表面に付着した食べカスやプラークを効率的にとりのぞくことが出来ます。
誤った歯磨き方法は磨き残しも発生しやすいため、歯を磨くときには「歯の裏側」「歯のかみ合わせ部分」「歯の表面」と3つのパートに分け、「歯の裏側なら歯の裏側だけ」といったように「同じパートをぐるりと磨く」ようにすると磨き残しが出にくくなります。
また、歯と歯のすき間に挟まった食べカスやプラークは歯ブラシでは落としにくいため、歯間ブラシやデンタルフロスなどのケア用品をブラッシングと合わせて使用することで、さらに虫歯を予防する確率を高めることが出来ます。
間食、だらだら食べ
1日3食の食事に加え、間食やおやつとして常に何かを食べ続けている「だらだら食べ」の習慣は、お口の中が食べ物やプラークが出す酸によって常に酸性状態となり、虫歯のきっかけとなる脱灰を起こしやすくなってしまいます。
人のお口の中は唾液によって中性状態を維持することにより、浄化作用が働き虫歯や酸から歯を守っているため、間食やおやつを常にだらだらと食べてしまうと中性状態を保つことが難しくなり、虫歯を発症するリスクが上がってしまうのです。
このため、虫歯を防ぐには間食やおやつは出来るだけ控え、1日3食の食事を決まった時間によく噛んで食べるようにしてお口の中の唾液を循環させ、中性状態を保つことを心がけるようにしましょう。
砂糖を使った甘いお菓子や清涼飲料水の摂り過ぎ
虫歯菌であるミュータンス菌は食べ物に含まれている糖質をエネルギー源として活動するため、糖分のかたまりである砂糖を使った甘いお菓子や糖分が大量に含まれている清涼飲料水を摂り過ぎてしまうと虫歯にかかりやすくなってしまいます。
お菓子やジュースはあまり摂り過ぎないように注意しましょう。
歯ぎしり
歯ぎしりの癖は歯のかみ合わせの部分に微細な亀裂であるクラックを作る原因となり、クラックの溝にプラークや食べカスが残りやすくなってしまい、虫歯にかかりやすくなります。
歯ぎしりはマウスピースなどを就寝中に装着することである程度症状を緩和させることも可能ですが、歯ぎしりの癖を根本的に直すことは難しいため、毎日の歯磨きをしっかりと行う、間食をせず甘いものは出来るだけ控える、などの歯ぎしり以外の生活習慣を見直すことが虫歯予防につながります。
ストレス
一見すると虫歯には無関係なように見えるストレスですが、実は、ストレスは虫歯と大きく関係しています。
皆さまにもご経験がある方がいらっしゃるかと思いますが、人はストレスがかかると「唾液の分泌量が減少」します。
これは、精神的なストレスを感じることで「交感神経」という神経が過剰に反応するのと同時に、「副交感神経」という唾液の分泌に大きくかかわっている神経の働きが鈍ってしまい、唾液の分泌量が減るためです。
唾液の分泌が減ると必然的にお口の中は乾いた状態が続き、お口の中を浄化する作用や再石灰化といった「唾液による歯の修復機能」が弱まってしまい、細菌が繁殖しやすい環境が作られ虫歯にかかりやすくなってしまいます。
ストレスが原因で虫歯にならないようにするには、睡眠を十分に取り自分自身の身体と脳を休ませてあげるほか、趣味を持つなどしてストレスを発散出来る方法を見つけ、日々の生活を出来るだけ「楽しい気分」で過ごし、「思い悩まない」ようにすることが大切です。
【ご自身のブラッシング方法と生活習慣を見直してみましょう】
「虫歯の原因を作る生活習慣」および「虫歯になりやすい人とそうでない人の違い」についてお話をさせていただきました。
虫歯はその人ごとに違う体質、そして誤った歯磨きの仕方が原因でひきおこされることが多いほか、間食や歯ぎしりといった生活習慣も虫歯のリスクを上げてしまう原因となります。
特に、間違っているブラッシング方法はなかなかご自身では改善出来ず、「毎日きちんと歯を磨いているのに虫歯になる」といった現象も発生しがちです。
もし、「歯磨きをしていても虫歯になってしまう」というお悩みがある方は、せひ一度、ご自身の生活習慣やブラッシングの仕方が虫歯リスクを上げているかどうかを確認してみることをおすすめします。