歯の神経の重要性!歯の神経に関する基礎知識

歯科治療においては、虫歯によって痛みが生じている場合に歯の神経を抜く治療を行うことがあります。

これは、歯の神経を抜かなければ痛みに耐えることができなかったり、歯の神経を残したままだとさまざまな問題がでてくるためです。

しかし、歯の神経は抜かないで済むのであれば残しておくのに越したことはありません。

では、なぜ歯の神経は抜かない方がよいのでしょうか?また、「神経を抜いて歯が死ぬ」とはいったいどんな状態のことを指しているのでしょうか?

今回は、歯の神経が私たちのお口の健康にどれだけの重要性を持っているのか、そして歯の神経を残す治療にはどのような種類があるのかについて詳しくお話をさせていただきます。

目次

「歯の神経を抜く」必要があるケースとは?

虫歯など、歯が痛むときに歯科医院を訪れ、「歯の神経を抜く必要があります」と言われた方も多いのではないでしょうか。

たしかに、虫歯治療においては歯の神経を抜く「抜髄(ばつずい)」という治療を必要に応じて行うことがあります。

抜髄をしなければいけないケースには以下の6つの症状があります。

何をしていなくても常に歯がズキズキと痛む

虫歯が歯の奥深く、歯の神経にあたる歯髄(しずい)にまで到達してしまった場合には、何をしていなくても歯が常にズキズキと痛むようになります。

神経にまで進行してしまった虫歯は放置しても痛みが治まることは無く、夜も眠れないほどの激痛を感じることも少なくありません。

また、虫歯が歯髄に到達すると神経が炎症を起こして腫れた状態となるため、治療時に麻酔が効きにくくなります。

このような症状のときには、歯の神経を抜く必要があります。

物をかんだときに激痛が走る

虫歯によって歯の神経全体がおかされた状態になると、食べ物をかんだときに激痛が走るようになります。

冷たいものや温かいものが歯に触れると長い時間しみる

冷たいものだけではなく温かい食べ物や飲み物、どちらも歯に触れるとしみ、なおかつ5秒間以上しみが続くときには虫歯が歯の神経に到達しているおそれがあります。

この「神経が虫歯によっておかされているとき」の痛みは、冷たいものが歯にしみる知覚過敏の一時的な痛みとは性質がまったく異なります。

痛み止めの薬を飲んでも痛みが治まらない

市販されている薬の中には虫歯の痛みを止める、という効能をうたった製品がありますが、そのような市販役の痛み止めを飲んでも一向に痛みが治まらないときには、かなり虫歯の症状が進行しており歯の神経が大きくダメージを受けている可能性があります。

顔の形が変わるほどひどく腫れる

ほっぺたやあご、リンパ腺が腫れ顔の形が変わってしまうほどの症状がある場合には、ほとんどのケースで歯の神経が虫歯菌におかされ腐った状態となっています。

歯の神経が腐っている場合には抜髄を行う必要があります。

歯の根っこの先端から膿がでている

歯の根っこの先端部分から膿がでているときには、その歯の神経を治療によって回復させることはもはや不可能な状態になっています。

このようなケースでは抜髄を行ったのち、歯の根っこを掃除する根管治療(こんかんちりょう)を行います。

歯の神経の重要性

虫歯菌におかされ激痛を感じることもある歯の神経ですが、「歯の神経は痛むから抜けばよい」という単純な器官ではありません。

神経が走っている歯の中心部分の歯髄には、さまざまな重要な役割があります。

歯の組織に栄養を運んでいる

歯の中心部分にある歯髄には歯の神経のほかに血管も通っており、血管の中には血液や免疫細胞など、さまざまな細胞が存在しています。

歯は白くて硬い物質のため一見すると血液が通っているようには見えないのですが、実は歯の中には血液がしっかりと流れています。そして、この血液が歯の内部に栄養を運ぶことにより、割れにくく強い歯が作られているのです。

このため、歯の神経が通っている歯髄を抜く治療を行うと、血管も同時に取り除くこととなり、歯を丈夫に保つのに必要な栄養分が運ばれなくなってしまいます。

温度差を感じたり、虫歯になったことを知らせてくれる

歯の神経は痛みを感じる痛覚はありますが、冷たいものや温かいものを感じる機能はありません。

しかし、神経は冷たいものや温かいものに触れると「痛み」として温度差を感じる機能があります。

また、歯の神経は虫歯や知覚過敏など、歯の異常が発生したときにも痛みを感じるため、私たちは神経が報せてくれる歯の痛みによって異常に気づくことができるのです。

歯を虫歯菌から守る

歯の神経は、歯の中に虫歯菌が侵入してくるのを防ぐ機能も持っています。

さらに、歯の神経には、虫歯ができてしまったときに歯を硬く丈夫にしたり再生するなど、急激に虫歯が進行するのを食い止める働きもあります。

歯の神経を抜くことのデメリット

虫歯が歯髄にまで進行しているケースでは、歯の神経を抜くことで激しい痛みから解放されます。しかし、歯の神経を抜くことは多くのデメリットも存在しています。

歯が死んでしまう

「歯が死ぬ」というのは歯そのものが消えてなくなる、という意味ではありません。

歯の神経が通っている歯髄は、上の項でお伝えしたとおり、歯に栄養を運ぶ役割があります。その歯髄を抜いてしまうと、歯に栄養が届かなくなります。

これが、歯が死んでしまった状態です。神経を抜いて死んでしまった歯は、神経が存在していたときの健康な状態の歯に戻すことは不可能となります。

歯の感覚を失ってしまう

歯の神経を抜くと虫歯が進行しても痛みを感じなくなるため、症状が悪化しやすくなります。

そして、歯は一度神経を抜いてしまえば二度と痛まない、ということはなく、神経を抜いたあとに歯の根っこの部分に細菌が感染してしまうと、歯を支えている歯槽骨というあごの骨が炎症を起こし強く痛んだり腫れたりすることがあります。

歯がもろくなり割れやすくなる

歯髄を抜き、栄養が供給されなくなった歯は、木が枯れてゆくようにもろく、割れやすくなってしまいます。また、歯の神経を抜いたあとに硬いものをかむと、歯が割れてしまうこともあります。

さらに、抜髄後に同じ歯がふたたび虫歯になってしまうと、神経が存在していたときよりも虫歯の症状が急激に悪化しやすくなります。

歯や歯ぐきの色が変色する

歯の神経が通っている歯髄を取り去ってしまうと、血液の循環によって行われていた歯の新陳代謝機能がなくなり、さらに古い細胞が象牙細管という象牙質内の管に入り込んでとどまってしまうため、歯がグレーっぽく黒ずんできます。

また、歯が黒ずむことによって歯の根っこの部分から透けて見える歯ぐきも黒ずんで見えるようになります。

治療にかかる期間が長くなり、費用も増える

歯の神経を抜く治療は、治療にかける期間が長くなり、患者様が負担する費用も増加します。

特に、歯の根っこの部分を掃除する根管治療は複数回に分けて歯の根を綺麗にしなければならない上、細菌が根っこに感染することで治療そのものをやり直さなければならなくなるケースも少なくありません。

長引く根管治療は患者様の大切な時間とお金を減らしてしまうばかりではなく、最悪の場合は治療を断念して抜歯せざるを得なくなるなど、歯の神経を抜く治療にはさまざまなデメリットがある、ということを治療を受ける患者様ご自身が事前にしっかりと認識しておく必要があります。

歯の神経を抜くメリット

歯の神経を抜くことはデメリットの方が多いのですが、メリットもあるため、歯科医院では症状やケースによって神経を抜く抜髄治療を患者様にご提案しています。

歯の神経を抜くことで痛みを止めることができる

歯の神経が通う歯髄にまで虫歯が進行し強い痛みを感じている場合には、歯の神経を抜く抜髄治療を行うことで虫歯の痛みを止めることができます。

虫歯の進行を食い止める

虫歯は悪化すると歯だけではなく歯を支えているあごの骨にまでおよんで骨髄炎などの重篤な症状を引き起こすほか、さらに虫歯を放置することで虫歯菌が全身をかけめぐり、心筋梗塞や脳梗塞など、全身性の疾患を発症してしまう可能性があることが研究によってじょじょに明らかになってきています。

歯の神経を抜く抜髄治療や抜髄後に行う根管治療は、歯の内部を綺麗にして細菌を取り除くと同時に虫歯の進行を食い止める、という役割があります。

歯の神経を抜く治療と根管治療について

虫歯が歯の神経にまで達している場合には抜髄と根管治療を行います。

これらの歯の神経の治療は感染対策を万全にして行わなければならず、感染対策が不十分だったり神経の取り残しがあると根管治療は失敗しやすく、治療が長期間におよんでしまうケースもあります。

局所麻酔の注射をした上で抜髄をする

歯の神経を抜く際には、患者様の歯ぐきに局所麻酔の注射を行ったのち、抜髄を進めてゆきます。抜髄ではまず、歯にできた虫歯の箇所を削って取り除き、神経を露出させます。

次に、露出した歯の神経(歯髄)をリーマーやファイル、クレンザーなどの器具を用いて除去します。この一連の治療を「抜髄」と呼びます。

抜髄を行うときには、治療時に歯の内部に細菌が感染しないようにするため、薄いゴムでできた「ラバーダム」という膜のようなものを患者様のお口の上にかぶせ、治療箇所にのみ穴を開けて処置を行います。

ラバーダムは抜髄・根管治療の成功率を上げるためには欠かせない器具のひとつであり、ラバーダムを使用せずに行った歯の神経治療では細菌感染が原因で治療が失敗に終わるケースも多く、現在では、日本国内の歯科医院においても「神経治療の際にラバーダムの使用を徹底する」、という意識の向上が求められるようになってきています。

そして、抜髄によって歯の神経を除去したあとは、空洞となった根管内部にお薬を入れてフタをし、仮歯を詰めていったん治療を終了します。

根管の清掃と形成を行う

抜髄後の治療では前回処置をした歯のフタをはずし、再度、根管内部の清掃を行ってゆきます。

この根管の清掃治療のことを「根治(こんち)」と呼び、根治には根管内部の形を綺麗にととのえる「根管形成」の役割もあります。

根治は歯科治療の中でももっとも細かい作業に分類される治療のひとつであり、具体的には、神経を取ったあとの0.1mm~0.2mmという小さな穴をファイルを使って神経をこそぎ落としながら0.4mm~0.5mm程度にまで拡げてゆきます。

根治は最終的には根管内部の分岐した神経をすべて取り除けば終了となりますが、治療中に発生した出血がなかなか治まらなかったり、かむと痛みを感じる、さらには根管形成が1度ではスムーズに終えることができないなど、治療が難航するケースも多いため、原則として根管治療は1度だけではなく2度、3度と複数回にわたって行うこととなります。

根治を複数回行う際には、ファイルで根管を清掃する→お薬を根管に入れる→フタをして仮歯を詰める、という作業を繰り返してゆきます。

根管充填を行い、根の治療が完了

根治を何度か繰り返し、根管内部が無菌状態になったことが確認できたら、細菌が繁殖しないようにするためのガッタパーチャという薬剤を根管に充填し、フタをして根の治療を終了します。

歯にかぶせ物を行い、虫歯の治療が完了する

根管充填により歯の根の治療が終了したあとは、かぶせ物の型を取ります。

この際、歯を大きく削って強度が失われている場合には、歯や歯の根っこが割れるのを防ぐために「コア」という土台を削った箇所に入れ、治療を行うこともあります。

コアの種類には保険が適用される金属製のメタルコアや、保険が利かず自己負担となるファイバーコアなどがあり、患者様がご自由に選択することが可能です。

そして最後に、根管治療を行った歯に接着剤を使ってクラウンをかぶせ、虫歯の治療は完了となります。

歯を削らない・歯の神経を取らない治療について

カリソルブ(歯をほとんど削らずに虫歯を溶かして除去する治療)

カリソルブ治療とは、カリソルブという薬剤を使って虫歯を溶かし、溶けた部分を除去することで虫歯を治す治療法です。

カリソルブ治療は従来の虫歯治療と比べて歯を削る量が最小限で済み神経にも触れないため、麻酔を使わなくても治療を行うことができるというメリットがあります。

カリソルブは歯科先進国であるスウェーデンで1998年に開発された無痛治療法で、現在のスウェーデンでは広く一般に浸透しており、日本でも2007年に厚生労働省によって認可された新しい虫歯の治療技術のひとつです。

ドックベストセメント治療(歯をほとんど削らずに虫歯を銅イオンの殺菌力で無菌化する治療)

ドックベストセメント治療とはアメリカで開発された新しい歯科治療法のひとつで、銅や酸化亜鉛、酸化チタン、リン酸、水酸化アルミなどを主成分とするドックベストセメントを使い、歯をほとんど削らずに銅イオンの力で虫歯を殺菌・治療する、という特徴があります。

ドックベストセメントは天然ミネラルが主成分であり安全性が高く、歯をほとんど削らないため、麻酔を使わない治療が可能となるほか、象牙質の再石灰化や歯の根の殺菌にも効果を期待できるなど、神経を残せる虫歯治療の方法として注目が高まってきています。

(※ 症状によっては上記の治療を適用できない場合もあります)

歯の神経の治療はリスクを考慮して慎重に

神経にまでおよんでしまった虫歯が原因で歯に強い痛みを感じているときには、歯の神経を抜くことで痛みを止めることができます。

しかし、歯の神経を失うということは、痛みが止まる・虫歯の進行を食い止める、というメリット以上にデメリットの方が多いです。

歯の神経は一度抜いてしまうと歯が死んでしまい、二度と元の健康な歯に戻ることはありません。

もちろん、症状が進んでしまった虫歯の治療においては抜髄をせざるを得ないケースはたくさんあるのですが、歯の寿命を考えるのであれば、神経はできるかぎり残しておくのがベストな方法となります。

天然の歯を末永く使い続けるためにも、歯の神経の治療にはさまざまなリスクがあることを患者様ご自身がしっかりと認識し、もし、神経を残せる可能性があるならば今回ご紹介した「カリソルブ」や「ドックベストセメント」など、歯をほとんど削らずに神経を残す虫歯治療をご検討されることをおすすめします。

 

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