「キーン、ガリガリ、あいたたた・・・」
「歯が痛いけど、歯医者さん、行きたくないなあ・・・」
「あの音と治療中に感じる痛みがイヤ・・・」
このような理由で“歯医者さん”を嫌っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、現在の歯科医院で行う虫歯治療は歯ぐきに表面麻酔をしてから麻酔注射を打ち、そのあとに歯を削るなど、「患者さんが痛みを感じないための努力」をしているところが多く、治療中に感じる痛みは以前よりも少なくなってきています。
歯医者さん嫌いの方はどうしても歯科医院に行くのを後回しにしてしまいがちですが、虫歯は早期に発見して早めに治療すればするほど、治療にかかる時間を短縮することができ、費用も安く済むようになります。
ここでは、「進行段階別の虫歯の治療方法」および「歯医者さん嫌いを克服するコツ」についてお話をさせていただきます。
目次
進行段階別の虫歯の治療方法
虫歯は進行度合いによって治療方法がそれぞれ異なります。
虫歯の症状や進行段階別の治療の流れは以下となります。
C0:初期段階の虫歯(穴はまだ開いていない)
C0はごく初期の虫歯でありまだ歯に穴は開いておらず、虫歯菌がだす酸や食べものや飲みものに含まれる酸によってエナメル質が溶け、にごっている状態のため、この段階では痛みは感じません。
C0の虫歯は痛みを感じないため患者さんご自身では症状に気づきにくく、歯科医院で受ける定期的な検診の際に見つかったり、企業や学校、各種団体などの歯科健診で「C0の要観察歯」と診断され、そのときに初めて虫歯があることを知る、というケースも少なくありません。
治療方法
C0の初期の虫歯は唾液の力によって行われる「再石灰化(※)」により歯を修復する効果を期待できるため、歯を削る治療はせず、患者さんがご自身で行う毎日の歯磨きを続けながら様子を見たり、歯科医院でフッ素を塗布するなど、再石灰化をうながす処置をします。
(※ 再石灰化・・・酸により溶かされた歯のエナメル質を唾液の中に含まれているリン酸やカルシウムが持つ力で修復していく働きのこと。)
C1:エナメル質にできる初期の虫歯(茶色いシミが確認でき、小さい穴が開く)
C1は歯の表面のエナメル質に茶色いシミが現れ始め、小さな黒い穴が開いてしまった状態の虫歯です。
C1の虫歯はC0と同じく初期の虫歯に分類され痛みを感じることはないのですが、歯に冷たいものが触れるとしみる場合があります。
C1の虫歯では茶色い色をしたシミが歯の表面にできたり小さな黒い穴が開くため患者さんご自身が症状に気づくケースもありますが、自覚症状があまりないため、虫歯を見落としてしまうことが多いです。
治療方法
C1の虫歯を治療する際には症状が軽ければ歯を削らず、フッ素塗布などの処置をして様子を見ます。
または、麻酔を使わずに少しだけ虫歯の部分を削り(神経には触れないため痛みを感じることはありません)、レジンというプラスチック樹脂でできた白い色の詰め物を歯を削ったところに充填して詰める治療を行います。
C2:象牙質にできる虫歯(外から見ても分かるくらいの黒い穴が開く)
C2はエナメル質の内側にある象牙質にまで虫歯が進んでしまった状態です。
C2の虫歯は外から見ても分かるくらいの黒い穴が歯に開くため、この段階で初めて虫歯があることに気づく、という方が多いです。
C2の虫歯は歯の神経に近い象牙質にまで虫歯が進行してしまっているため、食べものをかんだときや冷たいものや甘いものが歯にふれたときに痛みを感じるほか、何をしていなくても歯が痛むようになります。
治療方法
C2の虫歯では麻酔をしたあとに歯を削り、陶器でできたセラミックや金銀パラジウム合金(銀歯)の詰め物を歯に詰める治療を行います。
神経にまで進行した虫歯(歯の神経部分が虫歯におかされる)
C3は歯の中心にある「歯髄(しずい)」という神経が通っているところが虫歯におかされた状態です。
C3の状態にまで虫歯が進んでしまうと冷たいものや甘いものに加えて温かい食べ物や飲み物が歯にふれたときにもしみるようになるほか、何をしていないときでも常にズキズキとした強い痛みを感じるようになります。
C3の虫歯は歯の神経が虫歯菌によっておかされているため夜も眠れないほどの激しい痛みにおそわれたり、歯の根っこの部分に膿がたまる、歯ぐきや歯の根っこが炎症をおこして顔の形が変わるほど腫れる、など、さまざまな症状が現れます。
治療方法
C3の虫歯では麻酔をして歯を削ったのち、神経が通っている歯髄をとりのぞく「抜髄(ばつずい)」という治療をします。
抜髄治療をしたあとは、細菌におかされた歯の根っこをお掃除する「根管治療(こんかんちりょう)」を行います。
根管治療ではリーマーやファイルなどの器具を使って根管の中の清掃を行い、根管内部が無菌状態になったことを確認したあとに細菌の増殖を防ぐためのお薬を根管の中に充填してフタをします。
そして、最後にセラミックや銀歯などの素材でできたかぶせ物を歯にかぶせて治療が完了します。
この際、歯を大きく削ったことが原因で歯の強度不足が懸念される場合には、ファイバーコアやレジンコアなどの土台を歯の中に入れて補強をしたのちにクラウンをかぶせる場合もあります。
C4:神経が死滅してしまった状態の虫歯(歯冠がぼろぼろに崩れ落ちる)
C4の段階にまで進行した虫歯は、歯の上部(外から見える歯ぐきよりも上の部分)にあたる歯冠がぼろぼろに崩れ落ちて失われてしまい、歯の神経が死滅した状態になります。
C4の虫歯は神経が死んでしまっているため痛みを感じなくなるのですが、痛みを感じないからといって治療せずに放置していると今度は歯の根っこの先端部分から細菌があごの骨の中に侵入して骨を溶かしてしまったり、最終的には細菌が血管の内部に侵入して全身をかけめぐり、脳梗塞や心筋梗塞などの命にかかわる重篤な病気をひきおこすこともあります。
治療方法
C4の虫歯では歯を残せるようであればC3のときと同様に虫歯を削り根管治療を行いますが、C4の虫歯は根管の内部が全て虫歯におかされて治療が不可能な状態になっていることも多いため、治療をしても歯を残せる見込みがない場合には抜歯を行います。
抜歯をしたあとは患者さんのご希望をおうかがいした上でそれぞれの症状に合わせてブリッジや部分入れ歯、インプラントなどの補綴処置(ほてつしょち:失った歯をおぎなうこと)を行い、義歯を使って歯の機能と見た目を回復する治療を進めていきます。
歯医者さん嫌いを克服するコツ
「歯医者さん嫌い」は、主に子どもに多いのですが、大人になっても歯科医院に行きたくない、歯医者に通うのがつらい、という方も少なくありません。
では、そもそもなぜ歯医者さんが嫌いになってしまうのでしょうか?
歯科治療が苦手な方はほとんどの場合、幼少期時代に歯医者で痛い思いや怖い経験をしたことがあったり、適切ではない治療を受け症状が悪化してしまった、など、なんらかのネガティブな体験をしたことがきっかけになって歯医者さんが嫌いになってしまうケースが多いです。
この項では、上記のようなトラウマ的な体験や苦い思い出がある方が歯医者さん嫌いを克服するコツについてご紹介します。
子どもの場合は小児歯科での治療や子どもに優しく接してくれる歯科医院を選択する
小児歯科専門医の資格を保有する歯科医師が在籍している歯医者の多くは、子どものために絵本や遊具を用意したキッズルームを設けるなど、子どもがリラックスして治療を受けることができる環境が整っているところが多いです。
もちろん、小児歯科の看板をかかげていなくても歯科医師が子どもに対していつも優しく接している歯科医院であれば、そうではないところよりも気軽に通いやすく、子どもが持つ「歯医者は怖い」という心配を取り払いやすくなります。
子どもに虫歯治療を受けさせる前には、事前にその歯科医院が小児歯科を標榜しているかどうか、または子どもがリラックスして治療を受けられる環境が整っているかどうかを調べておくとよいでしょう。
虫歯がなくても歯科医院に定期的に通っておく
歯医者さんが嫌いになる方は幼少期の歯科医院での怖い体験やトラウマ的な治療の失敗に加え、「歯科医院に行き慣れていない」ことが原因で「歯医者は痛い治療をするところ」「歯医者の雰囲気がイヤ」など、歯科治療に対して一方的なマイナスのイメージを持ってしまっているケースが多いです。
このようなマイナスのイメージを解消するためには、歯科医院は虫歯になってから行くのではなく、虫歯などのお口の病気や異変がなくても常日頃から定期的に歯科医院に通って予防歯科を受けることで歯医者さんに対する苦手意識が薄れていき、歯科治療に対するハードルを下げることができます。
特に子どもの場合には虫歯がなくても普段から気軽に歯科医院を訪れて定期検診やフッ素塗布を受けたり、歯科医師や歯科衛生士とのふれあいを持つことによって「歯医者さんは怖くない」という良いイメージを子どもの意識の中に付けやすくなります。
治療を受ける前に「歯医者さんが苦手です」ということを伝えておく
大人になってから「歯医者さんが嫌い」「歯科治療が怖い」とおおっぴらに話してしまうと恥ずかしい、という理由で、本当は歯医者さんが嫌いなのに我慢して虫歯治療を受けている方はいらっしゃいませんでしょうか?
もし、上記のような不安をお持ちの場合には、治療を受ける前に歯科医師に直接「歯医者さんや歯科治療が苦手で・・・」と伝えておくことをオススメします。
あらかじめ患者さんの方から歯医者や歯科治療が苦手、ということを伝えておけば、歯科医師や歯科衛生士が患者さんが心配していることや疑問点などに対して丁寧に説明してくれたり、ストレスの少ない治療法を提示してくれますので、リラックスしながら安心して治療を受けられるようになります。
あらかじめ「痛いのが苦手です」ということを伝えておく
現在の歯科治療では虫歯を削る前に麻酔注射を打つため、治療中に痛みを感じることはほとんどありません。
また、麻酔注射を打つ前には歯ぐきに表面麻酔を塗りますので、注射のときの痛みも軽減されます。
このように今の虫歯治療では痛みを感じることが以前よりも格段に少なくなってきていますが、それでも治療中に感じる痛みに不安を覚えるときには、初診の際に問診票に「痛いのが苦手です」と記入したり、治療前に歯科医師に「痛みに弱いんです」ということを伝えておくとよいでしょう。
事前に患者さんの方から「痛みが苦手」ということを伝えておけば、治療を行う歯科医師も痛みを減らすために麻酔の量を増やすなど、最大限の努力をしてくれますので(※)、治療前には遠慮せずにはっきりと「痛いのが苦手」と伝えておくようにしましょう。
(※ 痛みを減らすために行う対処方法は歯科医院ごとに異なります)
治療以外の楽しみを見つける
上の4つのコツを聞いても、それでもまだ「歯医者はどうも苦手で・・・」という方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合には、歯科医院に通う際に治療以外の楽しみを見つけるのもひとつの手です。
たとえば、治療後にお買い物を楽しんだり、映画や演劇などを鑑賞する、公園をゆっくりと歩いて散策するなど、治療をしたあとに何か自分が楽しいと感じることを見つけておくと、歯医者さんに通うのも意外と楽しくなります。
「はあ、今日は歯医者か・・・」とネガティブな方向で考えるのではなく、「ショッピングの前に歯医者にちょっと立ち寄る」、くらいの感覚でいた方が精神的にも楽になることができます。
ただし、ひとつだけ気をつけていただきたいのは、歯科治療のあとにはある程度の時間が経つまで水以外の飲食はできないことが多いため、歯の状態によっては治療後の楽しみの中に「お食事」を含めるのを控えるようにしてください。
(歯科医師が指示した時間が経過すればお食事が可能となりますので、ご安心ください)
虫歯は未然に防ぐことが大切です
「進行段階別の虫歯の治療方法」と「歯医者さん嫌いを克服するコツ」についてご紹介をさせていただきました。
虫歯はかかってから治療を始めるよりも、日ごろからしっかりと歯磨きをしてプラークコントロールを行い、合わせて歯科医院でのプロケアを受け、虫歯を未然に防ぐことが大切です。
また、歯医者さん嫌いの方は普段から歯科医院に通い定期検診や歯のクリーニングを受けておくことで歯科治療に対する苦手意識が薄れ、虫歯の早期発見・早期治療につなげることができます。
もし、歯科治療に対して苦手意識や不安をお持ちの場合にはどんな質問でも丁寧にお答えしてサポートをさせていただきますので、ぜひ、お気軽に歯科医師までおたずねください。